映画感想 ジャン=マルク・バレ監督 『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』
「ダラス・バイヤーズクラブ」のジャン=マルク・バレ監督が、「ナイトクローラー」「サウスポー」の演技派ジェイク・ギレンホールを主演に迎え、妻の死にすら無感覚になってしまった男が、身の回りのものを破壊することで、ゼロからの再生へと向かっていく姿を描いたドラマ。ウォール街のエリート銀行員として出世コースに乗り、富も地位も手にしたデイヴィスは、高層タワーの上層階で空虚な数字と向き合う日々を送っていた。そんなある日、突然の事故で美しい妻が他界。しかし、一滴の涙も流すことができず、悲しみにすら無感覚に自分に気付いたデイヴィスは、本当に妻のことを愛していたのかもわからなくなってしまう。義父のある言葉をきっかけに、身の回りのあらゆるものを破壊し、自分の心の在り処を探し始めたデイヴィスは、その過程で妻が残していたメモを見つけるが……。
題名を見ると、ロマンチックな切ない恋愛ものか…?
と思うかもしれないが、内容は人生の示唆に富むようなもの。
(原題はDemolition:解体という意味。個人的にはこっちのほうがしっくりくる)
解説に書いてあるように、主人公は奥さんの死を悲しむことができない。
奥さんが死んだ日に、自販機の故障に対するクレームを入れているほど。
しかしそのクレームをきっかけに出会いが生じ、物語は進んでいく。
なぜ悲しむことができないのか。
自分は奥さんを愛していなかったのではないか…?
ジェイクギレンホール演じる主人公は過去を振り返っていき、人生を自分なりの理解で立て直していく。
スクラップビルド、という言葉があるがそれを人生にあてはめたような作品。
日々の生活を過ごしていると、トイレのドアの軋み、冷蔵庫の水漏れ、などがあっても、自分に影響がなければ見過ごすことはないだろうか?
そして、それが人間関係においてもあてはめられる。
しかし、自分の一番大切な奥さんに対してもそのような接し方をしているとどうなるのか。
そんなことを投げかけてくる。
何かを直すときは分解しろ、という義父の言葉から主人公はあらゆるものを病的なまでに解体していく。
主人公は、あらゆるものを解体していき、自分の周りに対する興味を得るようになってくる。
通勤でいつも同じ電車にのる男性、空港で通り過ぎる人々はどんな荷物をもっているのか、木が倒れていること、などなど。
全てが象徴となり、好奇心がでてくる。
当たり前と思っているようなこと、自分事ではないけどおかしいいなと思うこと、何か違和感を感じることがあれば、まずはその概念を解体すると既成概念にとらわれず自分が納得する生き方が見えてくるかもしれない。
自分が築き上げたものを壊すのはとても勇気の必要なことかもしれないが、何か一つでも解体するとすっきりするかもしれない。
ハートのLet me crazy on youという歌詞が切なく感じる、そんな作品。