Koshi’s diary

本・映画・ドラマについて感想を書きます。たまに雑記。

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読書感想 安部公房『砂の女』

砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められる。考えつく限りの方法で脱出を試みる男。家を守るために、男を穴の中にひきとめておこうとする女。そして、穴の上から男の逃亡を妨害し、二人の生活を眺める村の人々。ドキュメンタルな手法、サスペンスあふれる展開のうちに、人間存在の極限の姿を追求した長編。20数ヶ国語に翻訳されている。読売文学賞受賞作。

安部公房 『砂の女』 | 新潮社

 

 

恥ずかしながら安部公房の作品を初めて読んだ。

せっかくなので読んだ感想を書いていく。

 

閉鎖的な村の一軒家に閉じ込められてしまう男の物語。

その家には女が一人いて、ともに生活をしていくことになる。

その村は砂によって生活の仕方が制限されていて、かつその砂を外部に売って生計を立てているような村だ。日々の砂かきをしなければ家がこわれてしまうような状況のため、毎日の砂かきは生きていくうえで必要な労働。そして、その集めた砂を外部に販売して村のお金にしている。砂の性質上、それは許されないことだと男は言うが村としてはそんなこと知ったことではないというスタンスだ。

 

毎日同じことの繰り返しで労働も単調で過酷だし、さらには村の外に行く自由が奪われている生活。そんな村の生活に女は満足しているのだ。男は村の罠にかかり、同様の生活を強いられる。逃げるための梯子を奪われて、砂の影響から無理やり逃げ出すこともできない。

 

この作品で印象的だったのが、男が逃げ出そうとしながら逃げた先の社会にも希望を見いだせていない点。

教師として働いているが、『教師くらい妬みの虫にとりつかれた存在も珍しい』と言っているし、さらには同僚のことを『日常の灰色に、皮膚の色まで灰色になりかけた連中』と呼んだりもしている。

それにも関わらず、罠にはめられて閉じ込められたので脱出をしようとしている。当たり前の行動のように思えるが一種の矛盾をはらんでいる。

 

男は、村の現状を聞くほど村の生活を改善するのは難しいことを思い知らされる。行政に頼ることもなにもできない彼らは、今の生活を続ける以外にはないという結論を持っていてそのスタンスを変えることは男にはできない。

 

家に閉じ込められて、外の世界に出られないという意味ではコロナ禍の今にもつながるところはあるかもしれない。私は、出られる側だった人間が出られない側になったらどのようになるのかが描かれているように感じた。さらに、外に出られるにしろ出られないにしろ問題はあるので、そこにどのように向き合うかが大事なんだろうなという月並みな感想をいだいた。

 

最終的に男がどういう結論を下すのかは、ここには記さないが終わり方にも味があるので是非ご一読いただきたい。