読書感想 村上春樹『風の歌を聴け』
1970年の夏、海辺の街に帰省した<僕>は、友人の<鼠>とビールを飲み、介抱した女の子と親しくなって、退屈な時を送る。2人それぞれの愛の屈託をさりげなく受けとめてやるうちに、<僕>の夏はものうく、ほろ苦く過ぎさっていく。青春の一片を乾いた軽快なタッチで捉えた出色のデビュー作。群像新人賞受賞。
村上春樹のデビュー作。
今更ながら読んだ。
軽快なタッチの文章で読みやすい、量自体も少ないのでさくっと読めるもの。
こんなことを書くともっとじっくり読みこんだほうが楽しいといわれるかもしれないけど、この読みやすさが私は好きだ。
読みやすくて、意味ありげで、含蓄を含んだような文章たち。読後は楽しかったという思いがこみ上げてきて、またもう一度読みたいと思う。もう一度読んでみると、また楽しいと思える。
この作品の登場人物も面白いキャラクターたちばかりだが、特に鼠がかっこいい。鼠と主人公の僕の会話が好きだ。
その中でも私が特にお気に入りの会話を以下に引用したい。
「ねえ、俺たち二人でチームを組まないか?きっと何もかもうまくいくぜ。」
「手始めに何をする?」
「ビールを飲もう。」
この会話が、公園の垣根を突き破り、つつじの植え込みを踏み倒し、石柱に思い切り車をぶつけた直後の会話である。
完全に普通じゃないが、そんなことを話している二人はかっこいいと思ってしまう。
村上作品ではお酒が時折登場する。それを読んでいると無性にお酒が飲みたくなるという不思議な文章。
この作品も、夕暮れ時に窓を開けてビールでも読みながら読むとより一層楽しめるかもしれない。