読書感想 小川糸『たそがれビール』
パリの蚤の市で宝物探しに奔走し、モロッコでは夕日を見ながら屋台で舌鼓。旅先でお気に入りのカフェを見つけては、本を読んだり、手紙を書いたり、あの人のことを思ったり。年末に帰ってきた自宅ではおせちカレンダーを作り、新しい年を迎える準備を整える。ふとすると忘れがちな、当たり前のことを丁寧にする幸せを綴った大人気日記エッセイ。
ベストセラー作品である『食堂かたつむり』の作者、小川糸の『たそがれビール』を読んだ。
本屋で本を物色しているときに、まずはタイトルに惹かれた。
たそがれビールて!
こんなに素敵な単語の組み合わせを思いつくなんて、どんだけセンスあるんだ。
普通に生きていたら一生聞くことのない組み合わせだ。
27歳の自分にとっては、ビールってわいわいするときに飲むもの、仕事のストレスを紛らわすために飲むもの、くらいしかイメージがないので、たそがれとビールはリンクしていなかった。
ところが、たそがれビールと見たときに、素敵な組み合わせだなと気づかされた。
こういった言葉にきちんとふれて、豊かな言葉と一緒に生きていきたい。
…タイトルだけで、長々と書いてしまった。
少しだけ中身にも触れたい。
日付とともにエッセイが書かれている内容となっており、作者の日常が作者の感性で描かれている。
全部で83編。(数え間違えていたらすみません。)
日本、ドイツ、フランスを旅する中で、各地域について描く作者の言葉は柔らかく、素敵だ。海外旅行エッセイ的なものが占める部分は多いように感じた。
私のお気に入りは作者が一番年下の友達と呼ぶ、ららちゃんとのかかわりを描いている部分だ。
ららちゃんが小学生になる前に、二人で銀座の資生堂パーラーに行く、というのが今の私のささやかな夢だ。
実現できるといいんだけどな。
…素敵やん。
この後、ららちゃんの話は随所随所で出てきて、子供の成長が微笑ましい描写で描かれている。
文学的にーとか、描写力がーとか、ストーリーがーとか、野暮なことは言いたくない。本作はそれらが巧みで、重厚感たっぷりな作品ではないかもしれない。しかし、それがいいんだよ!っていう日もある。
それこそ、夕暮れ時にたそがれてビールでも飲みながら楽しむことができる作品。
そんな風に読めちゃう作品を作れるのも素敵なことだよなと思う。