読書感想 村上春樹『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』
高い壁に囲まれ、外界との接触がまるでない街で、そこに住む一角獣たちの頭骨から夢を読んで暮らす〈僕〉の物語、〔世界の終り〕。老科学者により意識の核に或る思考回路を組み込まれた〈私〉が、その回路に隠された秘密を巡って活躍する〔ハードボイルド・ワンダーランド〕。静寂な幻想世界と波瀾万丈の冒険活劇の二つの物語が同時進行して織りなす、村上春樹の不思議の国。
ファンタジーのような世界と無機質な主人公が化学反応を起こしている。
無機質なという表現が正しいのかは少し迷うが、世界の終わりの僕もハードボイルド・ワンダーランドの私も、どちらも危うい状態に追い詰められてもどこかでそれを達観していて、その時その時を過ごしている。
世界観は現実離れしている設定のはずなのに、そういった主人公目線の描写があるからかなぜか現実感がある。
・お気に入りの表現
『あるときには剛胆になれるし、あるときには臆病です。ひとくちじゃ言えません』『思考システムというのはまさにそういうものなのです。ひとくちでは言えん。その状況や対象によってあんたは剛胆さと臆病さというふたつの極のあいだのどれかのポイントを自然にほとんど瞬間的に選びとっておるのです。そういう細密なプログラムがあんたの中にできておるのですな。しかし、そのプログラムの細かい内訳や内容についてはあんたは殆んど何も知らん。知る必要がないからです。≪略≫』
自分の性格をどんな風に表現したらいいかって言われると、とても困ってしまうことがある。一言じゃ言えないし、実際自分でもよくわかっていないのだ。
そんな気持ちをなんとなく、きれいにまとめてくれている表現だと思う。
その状況や対象によって剛胆な時もあるし、臆病な時もある。うん、自分もそうだなと思う。ずっと剛胆であったり、ずっと慎重であれたほうが一貫性があって、人としての魅力もあるのかもしれないが、私はそうはいられない。
世界観も好きだし、随所に光る表現がある。
とてもお気に入りの作品だ。